2006年11月03日

谷川岳一ノ倉沢南稜

先日、友人の牧野と、谷川岳の一ノ倉沢烏帽子沢奥壁の南稜を登ってきました。
いつか登りたいねと言っていた、アルパインクライミングのクラシカルな入門ルートです。

入門ルートとはいっても、あの一ノ倉だから、独特の緊張感がありました。
早朝の一ノ倉沢出合には、朝焼けの岩壁を撮るためにカメラマンが大勢いたのですが、クライマーは僕たちとあと一パーティだけでした。
カメラマンたちは、出合から先へは入っていきません。そんななか奥へ入っていくのは、やはり「一線を越える」という感覚がありました。

僕たちは、山岳会に入ってはいないので、誰かに教えてもらうことなく、自分たちだけで試行錯誤しながら沢登りやクライミングを続けています。
きっと経験者に連れて行ってもらえば、もっと難しい沢や岩にも、もっと安心して簡単に行けると思うのですが、いつからか試行錯誤自体がとても楽しくなり、先生なしの学習を続けるようになっています。
こういう方法は、進歩がとても遅いです。だからもどかしさを感じることもしばしばなのですが、プロセス自体を楽しむにはいい方法だと思っています。
一ノ倉の出合から岩の大伽藍へと向かっていくときに「一線を越えた」と思えたことも、試行錯誤しながら続けてきたからより強く感じられたのかもしれません。先輩に連れられて行ったら、なんとなく登ってしまっていたかもしれません。

すごい高度感のなかずっと緊張感を保ち続け、ようやく稜線に抜けたときは、心底安堵しました。目が眩むような垂直の世界から、もう安心と思える場所に出たときは、深い水をくぐったような感覚がありました。「あっち側」から、ともかく無事戻って来れてよかったです。

クライミングの内容は、恥ずかしくなるほど随所でハーケンから垂れているスリング(環になっている紐)を持ってしまい、自然の岩だけを手がかりにするフリークライミングではなくなってしまったので、チキンだなあとの敗北感があるのですが、はじめてのアルパインクライミングなのだから仕方ないじゃないかと言い訳をして、慰めてます。

ただ、今回つくづく思ったのは、クライミングは趣味だということでした。
それを自分の生き方として、クライマーというアイデンティティを追求するには、執着心が少々足りないみたいです。人生を全部クライミングに賭けてしまうトップクライマーたちを憧憬の眼差しで見つめるばかりなのです。

もしかしたらどんなことでも同じかもしれないけれど、クライミングは、続けているとだんだん片手間ではできなくなっていきます。結婚のようなものを要求されてくる気がします。ぼくはかつて、ほんの少しだけ、クライミングとの結婚が頭をよぎったことがありました。でもいまは、たまに電話やお茶をするぐらいの距離になっています。トップクライマーなどの、結婚した人たちの報告を聞くのが大好きです。どんな分野でも、トップを行くひとたちがどれだけすごいのかは、かじってみてはじめて痛感できるものなのかもしれません。

(撮影はすべて牧野。二番目の写真、正面の岩壁の一番左にある稜線が南稜。)

投稿者 tsuyoshi : 2006年11月03日 06:40

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://hanamote.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/134

コメント

文章と写真を見ていると、こっちまで手に汗がにじんできます。ああ、岩にさわりたーい。

投稿者 oki : 2006年11月03日 15:43

アルパインは、フリーとはまた全然ちがう世界だったよ。
グレードはせいぜい5.9ぐらいまでだったけど、支点が残置ピンだしね。
「いちゃいけない場所にいる感」たっぷりでした。

投稿者 tsuyoshi : 2006年11月04日 02:26