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赤い服の女の子



  なんでもない出来事が妙に心に残ることがある。気づかなければすぐに忘れてしまうような些細な出来事が、あるときはなぜか心に残り、思い出しては少し嬉し くなることがある。きっと言葉にすることのできない理由があったのだろう。しかし、それが何だかは分からない。

  ジンバブエの田舎の山道を走っているときだった。厳しい道だった。上り坂ばかりが連続し、疲れ切っていた。いつまでこの坂が続くのかと少し苛立っていた。 そして焦っていた。目的の町まで明るいうちに辿り着けるか微妙な時間になってきていたのだ。

 午後三時ぐらいだったと思う。ゆるい上り坂だった。女の子が前を歩いていた。六歳ぐらい、赤い服を着ていた。そして僕に気づいて立ち止まった。僕はゆっ くり坂を上りながらハローとあいさつをした。その女の子もはにかんで答えてくれた。そして僕が追い越すとき、女の子が握手をするような感じで手を出してき た。僕は女の子の手を軽くポンとたたいた。女の子はまた恥ずかしそうに手を引っ込めて、とってもいい笑顔で笑った。僕はバイバイと手を振ってまた坂を上っ ていった。

  たったそれだけの出来事だった。でも僕は、通り過ぎてから少し元気になっていた。似たような出来事は今までに何度もあったけれど、なぜかこの女の子のこと をよく憶えている。あのはにかんだ笑顔をよく憶えている。僕はあの笑顔を見たときに、きっと長く記憶に残るだろうなと思った。何度も思い出す出来事になる だろうなと思った。そして、そうなっている。もしかしたら、出会いの印象の深さは、出会った時間の長さとはあまり関係がないのかもしれない。

  なんでもない、日常のふとした出来事の細部が、あるとき深く記憶に残ることがある。何気ないしぐさ、ふと聞こえてきた言葉、そして通り過ぎていった一陣の 風にさえも心を打たれることがある。なぜだかは分からない。ただ、そんな細部を感じられるときは元気になれる。そんな細部を時々感じられるから旅を続けら れるのかもしれない。

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